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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)7393号 判決 1998年7月28日

原告

川上治

被告

樽井京子

ほか一名

反訴原告

東京海上火災保険株式会社

反訴被告

川上治

主文

一  被告樽井京子は、原告(反訴被告)に対し、金一三万六六〇〇円及びこれに対する平成八年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)東京海上火災保険株式会社に対し、金四一万〇六三三円及びこれに対する平成九年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)と被告(反訴原告)東京海上火災保険株式会社間で、別紙交通事故目録記載の交通事故に基づき、原告(反訴被告)が被告(反訴原告)東京海上火災保険株式会社に対して負担する損害賠償債務(物損)は、前項記載の金員を超えて存在しないことを確認する。

四  原告(反訴被告)及び被告(反訴原告)東京海上火災保険株式会社のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その九を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告樽井京子及び被告(反訴原告)東京海上火災保険株式会社の負担とする。

六  この判決は、第一項及び第二項に限り 仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

1  被告樽井京子は、原告(反訴被告)に対し、金一二六万六〇〇〇円及びこれに対する平成八年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告(反訴被告)と被告(反訴原告)東京海上火災保険株式会社間で、別紙交通事故目録記載の交通事故に基づき、原告(反訴被告)が被告(反訴原告)東京海上火災保険株式会社に対して負担する損害賠償債務(物損)は存しないことを確認する。

二  反訴

原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)東京海上火災保険株式会社に対し、金四五万六二五九円及びこれに対する平成八年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告(反訴被告)が運転する普通乗用自動車と被告樽井京子が運転する普通乗用自動車とが衝突した事故につき、原告(反訴被告)が、<1>被告樽井京子に対しては、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求し、<2>被告(反訴原告)東京海上火災保険株式会社に対しては、保険代位に基づく損害賠償債務が存しないことの確認を求め、被告(反訴原告)東京海上火災保険株式会社が原告(反訴被告)に対し、商法六六二条一項(保険代位)に基づき、被告樽井京子の有していた損害賠償請求権を取得したとして、損害賠償を請求した事案である。

以下、原告(反訴被告)を単に「原告」、被告樽井京子を単に「被告樽井」、被告(反訴原告)東京海上火災保険株式会社を単に「被告会社」、被告樽井と被告会社とを併せて「被告ら」ということにする。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

別紙交通事故目録記載の事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

2  被告樽井の損害

被告樽井車両は、本件事故により、四五万六二五九円の修理費を要する損害を被った。

3  保険代位

被告会社は、被告樽井との自動車保険契約に基づき、同人に対して、右修理費四五万六二五九円の支払をした。

二  争点

1  本件事故の態様

(原告の主張)

本件事故は、原告車両が上りの左カーブにさしかかったところに被告樽井車両が道路中央を超えて正面から衝突してきたというものである。したがって、本件事故は、被告樽井の一方的な過失によるものである。

(被告らの主張)

本件事故は、被告樽井車両が下り勾配右カーブの道路中央より左側部分を走行していたところ、原告車両が、道路の中央を超えて右側にはみ出してきたため、被告樽井車両の前方右角に衝突してきたというものである。したがって、本件事故は、原告の一方的な過失によるものである。

2  原告の損害

(原告の主張)

(一) 修理費 一一三万三〇〇〇円

(二) レッカー費用 三万三〇〇〇円

(三) 弁護士費用 一〇万円

(被告らの主張)

不知。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲三[後記認定に反する部分を除く]、甲四[後記認定に反する部分を除く]、乙三、四、五1、2、六、被告樽井本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、和歌山県伊都郡九度山町笠木四・四キロポスト先(国道三七〇号線)である。本件事故現場を通る右道路(以下「本件道路」という。)は、山間地を走って橋本方面と高野山方面とを結ぶ道路であり、かなり急勾配のS字カーブの連続になっている。本件事故現場付近の本件道路の幅員は約五・六メートルである。本件事故現場であるカーブ内には、センターラインは引かれていないが、カーブの橋本寄り・高野山寄りにはいずれにもセンターラインが引かれており、カーブ内でも、現場道路が二分割して舗装されたためか道路中央にセンターラインのごとき窪みが存している。本件道路を橋本方面・高野山方面のいずれから走行してきた場合も、樹木のため進路前方の見通しは悪い。本件事故当時は、小雨が降っていた。

被告樽井は、被告樽井車両を運転し、時速約三〇キロメートルで本件道路の中央よりも左側部分を走行しながら高野山方面から橋本方面に向けて下っていたが、本件事故現場の右カーブを曲がろうとしたとき、時速約三〇キロメートルで本件道路を橋本方面から高野山方面に向けて上ってきた原告車両が道路中央を越えて進入してきたため、道路中央よりも五〇センチメートルほど越えた地点で原告車両の前方右角と被告樽井車両の前方右角とが衝突した。本件衝突によって破損した両車両の破片は、右衝突地点付近(すなわち、道路中央よりも原告車両進行方向からみて右側部分)に集中して落下した。

以上のとおり認められる。

この点、原告は、道路中央を越えたのは被告樽井車両の方であるという主張をし、本件衝突によって破損した破片の落下位置との関係について、被告樽井車両が原告車両よりも車高が高いため、衝突時には被告樽井車両が原告車両のエンジン収納部に覆いかぶさる形になり 衝突による破損物は原告車両のエンジン収納部がいわば受け皿になり 衝突地点では路面に落下することはなく、右落下物は、被告樽井車両が衝突後バックしてから左方向に前進した際に落下したものであると説明し、これに沿う原告本人の供述等もある。しかしながら、衝突地点が原告車両進行方向からみて本件道路の中央よりも左側であるとすると、本件衝突によって破損した破片が道路中央よりも原告車両進行方向からみて右側に集中して落下しており 左側にほとんど存しないのは、両車両に車高差があることを考慮しても、極めて不自然であるし、落下物のうち被告樽井車両の右フロントバンパエクステンションはかなり低い位置に装着されているものであり 原告車両が受け皿になるとは考えがたい。これらの点に照らすと、本件事故の態様に関する原告本人の供述等は信用することができず、他に前認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件道路は山間地を走るとはいえ、その幅員は比較的広く、本件事故現場付近にセンターラインは引かれてはいないといっても、道路中央にセンターラインのごとき窪みが存しているのであって、本件事故は、基本的には、原告が本件道路の中央を越えて右側に進入した過失のために起きたものであると認められる。しかしながら、他方において、本件道路の進路前方の見通しが悪いこと、本件事故現場においてはセンターラインが引かれていないことからすると、被告樽井としても、道路中央を若干越えてカーブを曲がってくる車両が存することも想定されるから、警笛を鳴らすなりしてそのような車両の運転者に対して注意を喚起するとか、もう少し左寄りを走行するなどして、事故を回避することも期待できたというべきである。

したがって、本件事故態様に関する一切の事情を考慮し、原告と被告樽井との過失割合は、原告九、被告樽井一の関係にあるとみるのが相当である。

二  争点2について(原告の損害)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 修理費 一一三万三〇〇〇円

原告は、本件事故によって、修理費相当額一一三万三〇〇〇円の損害を被ったものと認められる(甲二、原告本人)。

(二) レッカー費用 三万三〇〇〇円

原告は、本件事故によって、レッカー費用三万三〇〇〇円の損害を被ったものと認められる(甲二)。

2  損害額(過失相殺後) 一三一万九六六六円

以上掲げた原告の損害額の合計は、一一六万六〇〇〇円であるところ、前記の次第でその九割を控除すると、一一万六六〇〇円となる。

3  弁護士費用 二万円

弁護士費用は、保険代位した債権の性質にかんがみ、その相当額を相手方に負担させるのが適当であるところ、本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、弁護士費用としては二万円を相当と認める。

三  被告らの損害

1  損害額(過失相殺前)

<1> 被告樽井車両が、本件事故により 四五万六二五九円の修理費を要する損害を被ったこと、<2>被告会社が、被告樽井との自動車保険契約に基づき、同人に対して、右修理費四五万六二五九円の支払をしたことは、当事者間に争いがない。

被告会社の右支払の日は、本件全証拠によっても明らかではないから、被告会社請求にかかる遅延損害金の起算日は、反訴状送達の日の翌日である平成九年九月一八日とする。

2  損害額(過失相殺後) 四一万〇六三三円

右損害額四五万六二五九円につき、前記の次第で一割を控除すると、四一万〇六三三円(一円未満切捨て)となる。

四  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

交通事故目録

日時 平成八年三月三〇日午後〇時一〇分頃

場所 和歌山県伊都郡九度山町笠木四・四キロポスト先(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(和泉五四さ九八八六)(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告

事故車両二 普通乗用自動車(和歌山三三た六三〇七)(以下「被告樽井車両」という。)

右運転者 被告樽井

態様 原告車両と被告樽井車両とが衝突した。

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